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くらっちワールド

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妹の一人暮らし

妹が一人暮しを始めた。

妹はずっと一人暮しをするのが夢だった。
高校生の時、会社の面接でも
将来の夢は?と聞かれて
「一人暮しをすることです」
と、答えてたくらいだった。

その妹が一人暮しを始めた。

妹が家からいなくなる。
それは父と母が離婚して
父が出ていった時よりも
私にとっては喪失感の大きい出来事だった。

毎日、少しずつ妹の面影がなくなっていく。

ふと歯を磨く時に歯ブラシに手をやり、
一本足りないことに気付く。
一緒に使っていたマニキュアの箱が
ごっそりなくなっているスペースの虚しさ。
寝る前にしていたくだらないお喋りも
今ではもうなくなってしまった。

当たり前のことだが、私は妹の姉であり、
妹が産まれた時から彼女のことをずっと見てきた。
旅行や宿泊訓練などで少し離れることはあっても
必ずこの家に帰ってきていた。
そして必ずこの家しか帰るところはなかったのだ。

しかし、今は違う。
同じ家族であることは変わりないが、
もう妹はこの家の人間ではないのだ。
外に出て一人で自立したのだ。
私にはそれがひどく淋しくて、
行き場のない悲しさを生んでいる出来事なのだ。

今日初めて妹の家を訪ねて、
妹と彼氏が仲良く荷物の整理をしたり、
料理を作ったりしているのを横目で見ながら、
小姑のような気持ちで
妹の自立した様を見てきた。
もう妹には私なんか要らないのだ。
そんなすねたような気持ちにもなった。

帰り際、妹は
「いつでも泊まりに来ていいで」
と、言った。
一人暮しをする前は
「一人を満喫したいから絶対来ないでよ」
と、言っていたのに・・・。

「一人は淋しい?」
と、私が聞くと、素直にウンと答え、
私が帰る様子を窓から見送ってくれた。

淋しかったのは、私だけじゃないんだ。

そう思うと、やけに嬉しかった。
私たちはやっぱり家族なんだ。
そう思った。

家までたった5分の帰り道
私は夏の夜風の心地よさを感じながら、
少し妹を想ってせつなくなった。


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